まえがたつからぜんりつせん


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小説『3月』 第1章

 運命的な出会いなんて、早々落ちてるもんじゃない。人生まだ15年しか生きちゃいないが、これだけ言われ続けりゃ悟りもする。
  はっきり言ってこの15年間モテなかった時期は無かった。放課後の教室、裏庭の木の下、公園のベンチ、下駄箱のラブレター…。もう散々言われた。『運命を感じました』『あなたこそ運命の人だと信じてます』。冗談じゃない。こっちは会話どころか目もあった記憶すらないのに。

  昨日、めでたく中学の卒業式に臨んだ俺は、傲慢な女子の黄色い声にもみくちゃにされた。何だって今時この学校は学ランなんだよ、畜生。結局俺に残されたのは無数の擦り傷とボタンが引きちぎられてボロボロになった元制服の布だけだ。保健室に連れて行って介抱してやろうとか、破れた裾を繕ってやろうとかいう殊勝な女子なんていやしない。所詮奴らは俺をアイドルかペットだと勘違いして騒いでいるのが楽しいだけなんだ。
  その上騒ぎで貰った卒業証書までどこかへ置き忘れてしまった。仕方なく今日、もう二度と歩く事もないと思っていた坂道を歩いている。

 えー、…っと。卒業証書は、式の後に教室で担任から個別で渡されてー、その後、別れの挨拶があって……。謝恩会の間まで一時解散ってなった瞬間には、もう女共に囲まれて身動き取れなくなっちまったから、きっと教室の机の中だ。糞!
  制服は既に着られる状態ではなくなっていたので、仕方なく私服で学校に入る。今の時間は授業中だから後輩達に見られる心配は少ないけど、やっぱりちょっと格好悪い。俺はなるべく人に気付かれぬよう配慮しながら、こっそりと廊下を歩いた。
  ありがたい事に3年の教室は1階にあったので(3年は体力が無いからとか、受験の重圧に負けて飛び降りたりしないようにだとか、まことしやかな噂は流れていたけど真相は知らない)、誰にも会う事なく自分の―― いや、元自分の、か。教室に辿り着く事が出来た。
  生徒が誰もいないため電気の消された1階は、昼だというのに静かで薄暗かった。風に乗って、授業を行う教師の声や合唱する生徒達の声がわずかに聞こえてくる。ついこの間まで俺もこの中にいたんだよなぁ。春の風は心地良く、俺は自分の古巣を独占できる偶然に、今までの怒りを忘れて多少わくわくしながらドアを開けた。

  ……いや、独占じゃなかった。俺の席の隣で誰か寝ている。
  窓際の一番後ろにあたるその席は、確か女子ソフト部のキャプテンをしてた奴だった。しかし、その机に突っ伏している女は、明らかに運動なんかやらなそうな華奢な体格をしている。ていうか、あんな腰まであるようなストレートの髪の女は、このクラスにはいない筈だ。
  どのみちそっちに行かなければならないので、ついでに近づいて顔を覗き込んだ。長い睫毛の下には薄桃色の唇が中途半端に開いて、可愛らしく並んだ歯を覗かせている。完全に熟睡の状態だ。普段の状況だったら俺に会いに来たことも考えられるけど、卒業した今となっては、その可能性も薄いだろう。後輩がこっそりサボりに来てるのか?
  しばらく顔を見つめて考えていたが、ふと唇に何か白い物が落ちた気がした。
 「桜……?」
  何の邪念もなかった。ただ単純に口に何か付いているから取ってやろうと――手を伸ばすとぷにん、とはじき返されて、何かぬるぬるしたものが人差し指に付いた。
  その途端、ぱちりと音がするかのように彼女の瞳が開いた。驚いているからか、思ったよりずっと大きくて黒い。
 「あ、ごめん。起こしちゃった?いや、今、桜が口に――」
  まだ説明の途中だというのに、耳まで真っ赤にした彼女に思い切り突き飛ばされて尻餅をついた。
 「いてっ」
  思わず出てしまった声に、走り出しかけた彼女は勢い良く振り返ると
「ごめんなさい!」
とお辞儀をして、その勢いのまま、またUターンして消えてしまった。
  くるくると回るスカートと一緒にさらりと彼女を彩る髪がとても綺麗で、俺は怒ることも引き止めることも忘れてしまった。

確かに出会いで心がこんなに高揚するのなら、運命だと勘違いしてしまうのも仕方ない。



  家に帰って早速卒業アルバムをめくったが、それらしい黒髪は見つからなかった。やはり後輩だったんだろうか?
  翌日、俺はまた同じ坂道を登っていた。よくよく考えたら今の時期に桜なんてまだ咲いてないじゃないか。指についたのは多分リップクリームで、窓際だったからそれが光って見えたんだ。寝ているところを急に唇に触られて、きっと驚いた事だろう。ていうか俺、あの状況だと完全に痴漢なんじゃないのか?卒業直後にそんな汚名は避けたい。
  3月頭らしい爽やかな風が頬を撫でるのにさえ、いらいらと落ち着かない。なんでこの坂こんなに長いんだ! やけに喉が渇いて張り付く。遅刻寸前のダッシュの時だって、こんなに焦ったりしてなかった。

  ここに居るとは思ってなかったが、一応教室のドアを開けてみる。このクラスの生徒でないことは明白だったし、それより知り合いの後輩に聞いて回った方が確実だ。それでもここから先に覗いてしまったのは何故だろう。やっぱり運命って奴を信じたくなったんだろうか?まさか。
  しかし予想に反して(?)彼女は昨日と同じ場所で、同じように寝息を立てていた。ほっとするかと思ったが、身体は更に緊張して血が逆流する。近づいたら心臓の音で彼女が起きてしまいそうだ。
 近づこうとして、ふと足が止まる。彼女にとっては昨日の今日。とうに卒業した男が用も無いのに目の前にやって来て、こんな赤い顔で息を荒くしていたら、本当に変態だと思われても仕方ないんじゃないか?
 俺は彼女から4,5メートル離れると、一旦息を整えてからゆっくり呼びかけた。

 「あの……」
  彼女の瞼が持ち上がる一瞬、長い睫毛に光が流れた。今まで俺はこんなにしっかり女性の顔を眺めた事があっただろうか。見とれるって、こういう事を言うんだな。
 「…………!!」
  彼女は俺の顔を確認した途端、また身体を真っ赤に染め上げると勢い良く立ち上がった。元々白い肌の持ち主らしく、セーラーの襟から覗かせた鎖骨が紅色に浮かんで妙に色っぽい。
 「! 待って!」
  慌てて左をすり抜けて行こうとする彼女の腕を辛うじて捕まえた。捕まえて気付いた。俺、何言おうとしてたんだっけ?そう言や全く考えてなかった。ていうか、そもそも何しに来たんだよ、俺! 頭の中が真っ白になる。どうしよう、このままじゃ本当に変態だ。
  一瞬、腕を持つ力が緩んだ。その隙に、彼女はその細い腕からは予測できない力で俺の手を振り解くと教室を飛び出した。駄目だ! ここで見失ったらもう会えない! 理屈というより直感でそう思った。
  こちらも慌てて後を追う。彼女の足は案外速く、既に昇降口に向かってカーブしたところだ。大丈夫、靴を履き替える時間を考えればまだ間に合う。俺は必死でダッシュして昇降口への角を曲がった。丁度彼女は靴を履き替え、こちらを伺うように振り返ったところだ。間に合え――!!

  …こんな時雄の本能というのは恐ろしいもので、俺はまだ挨拶も交わしたことのない彼女に向かって思い切りダイブしていた。…ああ、変態確定だ……。



  転倒して数十秒も経っていなかったと思う。目を覚ました俺の右手にはしっかりと彼女のストレートの黒髪が握られていて、そこから先は何もついていなかった。まさか、生首!? な訳はない。
 「これ、カツラ……?」
  視線の先に影が落ちたので仰ぎ見ると、目を潤ませて彼女だったヤツが脇に佇んでいた。

  ――何てこった……。

  多分、俺にとって彼女は初恋だったんだ。自分がこんなに恋愛に不器用だったなんて思わなかった。今まで俺にとって女というのは、勝手に寄ってきては祭り上げ付きまとう、煩い生き物でしかなかった。それが一瞬でこんなに気持ちが制御できなくなるなんて……。俺は今、自分を叩きのめしたい気持ちでいっぱいだ。
  俺はそいつに見覚えがあった。セーラーの裾をつまんで今にも泣き出しそうな表情で震えているそいつは、俺のクラスメイトで隣の席だった女子ソフト部部長、の双子の弟に間違いなかった――。


>『3月』第2章

小説『2月』 第7章

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 発車のベルが鳴る。無計画に飛び乗った最前列の車両は、混んでいるとまでは言わないけれど、そこそこ人がいて座るのを躊躇わせた。運転席側の窓から、初めての風景達が襲いかかるように後ろへと流れていく。目から飛び込む情報が多すぎて頭が痛い。あたしはドアに身体を預けると、ゆっくり息を吐きながら瞳を閉じた。
 朝目が覚めたら、もうあの人は家にいなかった。今日家を出る事は前もって聞かされていたから、早めに起きてチョコレートを渡すつもりでいたのに、それでも出し抜かれた。
「楽しみにしてる、って言ったくせに……」
 嘘つき。

 自宅から急行を使っても2時間強。確かに通うには遠い距離だ。この距離があたしたちに必要な距離。少なくとも向こうはそう思っている。――あたし、ちゃんと笑えるかな?
 もう一度ゆっくり息を吐いて、唇に指先を当てながら口角を上げてみる。ドアのガラスに映してみたけど、外が明るすぎて良く分からなかった。





 電車を降りると、どこかで見たことのあるような、でも知らない街。
 もしも大学に合格したら(落ちることは無いと思うけど)きっといつものように自分ひとりで家を探して、誰にも頼らず生活の基盤を立てて……。ここから彼の新しい世界が始まるのだろう。
 そうしたら、あたしは本当に蚊帳の外だ。彼の中にはひとかけらも入り込めない。

 オートロックのインターホンを前にして、改めて2,3回深呼吸。両中指で口角にそっと触れてからボタンを押した。
『はい』
 随分久しぶりに聞いた気がする。柔らかい、甘い、低音。
 インターホンのカメラに、あたしの顔はどう映っているんだろう? 下を向くな。背筋を伸ばして、笑え。

「お前、勝手にひとりで家を出てきたら駄目だろ。母さん電話口で青くなってたぞ」
「はぁい」
 ドアを開けるなり、そう叱られた。
 勝手に飛び出した訳ではない。置手紙はしてきた。だからこそ心配かけたのかもしれない。でなければ高校を卒業する娘が、たかだか昼の2時間程度いなくなったくらいで騒いだりしないだろう。ここまでの距離を改めて思う。
「お茶、淹れるね」
 お母さんへ連絡を入れようと、携帯のボタンを押す背中に声をかける。
 簡素なキッチン。独り暮らし用のウィークリーマンションなんてこんなものかもしれないけど、ワンルームの狭い空間に最低限の家具。生活感の感じられない部屋だ。もっとも今日越して来たばかりだし、ここに住み続ける訳でもないから当たり前なのかな。

 怒った声も素敵だけどね。

 シンクに手を置いて、下を向いたまま小さく笑う。
 お茶の道具を持って来て良かった。今のあたしが自信を持って出来る唯一の事だ。
「明日は、いよいよ本番なんでしょ」
「そうだよ」
 メールを打つ手を止めずに、彼が答える。
「あたしね、遅くなっちゃったけどチョコレート作ってきたの。食べて欲しくて」
「…………何だよ、それ。送ってくれたら良かったのに」
 小さくだけど表情が崩れた。

 受け取れない、とまでは言われなかったけど。
 やかんから勢いよく湯気がたつのを眺めながら、聞こえないようにゆっくりと10まで数える。大丈夫。大丈夫だよ。もう一度だけ指先を口角に当てて、あたしはコンロの火を止めた。






 ビターに仕上げたガトー・ショコラを小さく切り分ける。これがあなたの口に運ばれるのも、きっと今年が最後になるね。
「悪いけど、今回のは自信作だから。目の前で食べて感想聞かせて貰おうと思って」
「そんなに口元をじっと見られたら、食べるに食べられないんだけど」
「食べて」
「食べるけど」
「食べないで行っちゃったのが悪いんだから」
「………………」
「食べて」
「ああ。…………いただきます」

 ずるい。たかがチョコレートを食べたくらいで、人をこんな気持ちにさせて。駄目だ。ちゃんと笑うって決めたんだ。笑ってちゃんと、話をするんだ。
 お兄ちゃんが好き。ずっと釣り合う妹になりたいって思ってた――って思ってた。
 違ってた。『妹』になんてなりたくなんかなかった。本当はずっと。気付いてしまったから。
 決別しなくちゃいけない。『妹』じゃないと、『妹』として愛せないんだと、彼に認めてもらうためには。泣かない。甘えない。瞳を逸らさない。背筋を伸ばして、ちゃんと笑って、あたしが彼なしでも一人の人間として立てるところを見せなくちゃならない。

「美味しい?」
「ああ……。旨いよ。頑張ったな」
 静かに微笑んでいるけど、視線はティーカップに落としたまま。ちゃんと顔を見て話したいのに。
「…………ねぇ、生まれて初めてチョコ食べた日の事って覚えてる?」
「いや? さすがに覚えてないな」
「あたしは覚えてる」
「へぇ。すごいな」
「あなたがくれたんでしょ?」
 やっと視線がこっちに向いた。変な顔してる。困ったような、驚いたような。さすがに気付いたよね? 気付かない振りなんか出来ないよね?
「あなたが初めて家に来た日だよ。お父さんは、今まで見たことないカッコいい服着てた。抱かれたあなたも綺麗な格好だった。でもなんだか怖い雰囲気がして、あたしびっくりして泣いちゃったのね。そしたらあなたがポケットからチョコを一粒くれたの。ずっと入ってたせいで少し溶けてたんだけど、一生懸命包みを剥いてくれてね。――初めて食べたチョコは、ちょっとほろ苦くて、でもすっごくすっごく甘かった。それであたし、この人大好き! って思ったの」

 話しているうちに、こっちが恥ずかしくなって下を向いていた。いけない。姿勢を正して目線を前に向けると、彼が真っ青な顔で立ち上がりかけるところだった。
「ちょっ……」
 大丈夫? と言い出すより前に、彼の身体が大きく傾いた。





「ねぇ、ほんと大丈夫?」
 トイレも洗面台も一部屋に収まった狭苦しいユニットバスの中。便器を抱えて胃液を吐く彼に、背中をさすってやる事しか出来ない。
「どうしよう。会心の出来だと思ったのに。何か間違ったかな? 変な味した? 本当にごめんなさい。……どうしよう、明日の試験に影響したら。この辺の薬屋さんって、どこかなぁ?」
 こんな肝心な時にまたしてもドジを踏む、自分の馬鹿さ加減に腹が立つ。せめてその失敗が自分にふりかかるものなら良かったのに。また彼に迷惑をかけてしまった。しかも彼の人生を左右する大事な時に。
 こんな事ならしなければ良かった。所詮、あたしのやっている事なんてただの自己満足に過ぎない。ただ気持ちを昇華するためだけの――彼の人生にとっては何の意義もない。それどころか、とんだお荷物だ。
「……………………違ゥ、から……」
 弱々しい声でそれだけ返ってきて、彼はまた勢いよくえずき出した。確かにチョコも紅茶もそんなにたくさんあった訳ではないけど。実際胃の中に何も残っていないのか、さっきから透明な酸ばかり出ている。

「…………お前……どこまで、知ってた……?」
 吐くものがすっかり無くなって、しばらく荒い息をしながら咳き込んだりしていた彼の、ようやく紡いだ言葉の意味が、私には良く分からななかった。
「何の話?」
「だから!」
 一瞬出した大声は、再び襲って来た吐き気にかき消された。落ち着くまで黙って背中をさする。いつも追いかけていた背中が、こんなに頼りなげに見えたのは生まれて初めてだ。
「……………………全部、だよ」
 吐き気が収まった彼は、大きく息を吸うと、ため息をつくようにそう呟いた。
「俺と父さんとの事とか、俺の母さんの事とか……どこまで覚えてる? どこまで聞いてた? お前、あの頃まだちっちゃかったし。あの時、父さんお前にも言ってたのか?」

 本当に、何の話?

 俺と、父さんと『俺の』母さん? あなたのお母さんはあたしのお母さんなんじゃないの? お父さん? お父さん、あたしに何か言ってたかな?
 彼の背中を見つめながら考え込んでしまったあたしに気付いて、彼ははっとした表情で振り返った。瞳と瞳が合って、それでも答えが出せないでいるあたしを見て、彼は大きく下唇を噛むと視線を横に逸らした。その仕草に、鈍いあたしの脳にも光が点る。
「…………あたし勝手に、あなたは小さい頃どこかに預けられてたのかと思ってたんだけど」
 今まで夢のように思い描いて、でも願わないように押し殺していた事だ。でも、でも、もしかして……。信じられない予感に、声が震える。
「――……つまり、それは……」
「家族だよ!!」
 覆いかぶさるような叫び声で、あたしの淡い期待は打ち砕かれた。
「家族だよ…………。当然だろ?」
 そう言って、彼は便座に腰掛けると祈るように組んだ指に額を押しつけ、その肘を膝の上に乗せた。膝が小刻みに揺れている。






 ああ、そうか。
 いつも優しい『お兄ちゃん』だったから、ずっと大事に包んでもらってたから、勘違いしてた。
 分かってたつもりで、やっぱり心のどこかで期待してた。過信してた。
 あたしはずっと彼のことが大好きで、彼もその想いに答えてくれているんだと思ってた。この想いも、たとえ叶わなくても、微笑んで受け止めて包んでくれるんだって。 

 ドアを開けてから、ずっと冷たかったじゃない!
 チョコも受け取らずに黙って出て行かれたじゃない!
 受験先だって、内緒で変えてたじゃない!
 去年の受験の朝、突き飛ばされたじゃない!

 『妹』から貰うチョコは哀しいんだってさ。言ってたじゃない。
 やっと分かった。あなたはいつも、ギリギリのところであたしを排除する。





「……………………お兄ちゃん」
 組んだ手の上から、ゆっくりと頭が持ち上がる。この部屋に来て、初めて彼をそう呼んだ。
 やっと分かったよ。あなたの本当の気持ち。
 あたしにあげられるものが、やっと分かった。だから。

 嘘をつこう。
 本当の言葉で、嘘をつこう。

「お兄ちゃん、あたしね」
 好きよ。
「好きな人がいるの」
 はじめて会ったときからずっと。
「大好きなの。でも」
 ずっと、ずっと好きなの。
「…………ふられちゃ、って」
 ずっと、そばにいて欲しかったけど。
「だから大学に行ったら、さ」
 あなたが欲しかったのは、あたしじゃなかったから。
「ちゃんと新しい恋、するんだ」
 だから、あげる。
「それで、いつかは結婚してさ」
 あなたの欲しかったものをあげる。
「子どもとかいっぱい産んでさ。幸せになるからさ。だから」
 『家族』をあげる。『妹』でいてあげるよ。
「お兄ちゃんも……可愛いお嫁さんとかもらって、さ。子ども作ってさ」
 解放してあげるよ。
「それでお正月とかみんなで集まってさ、そういうの」
 だから…
「きっと楽しいよねぇ?」
 だから…………!!

「……………………うん。……そうだな」
 お兄ちゃんは視線を右に逸らせながら呟いて、それからゆっくり瞼を伏せた。
 良かった。微笑えた。
 奥歯に少し力がかかるけど、きっと慣れる。
「お兄ちゃんの事が大好きだよ。……みんなそうだよ。だから、時々は帰って来てよ。勝手に一人でどっかに行っちゃったりしないで」
「なんだか母さんにも同じような事言われたな。放浪癖でもあると思われてるのか? 俺」
 お兄ちゃんは失笑して、今度はしっかりとあたしに瞳を合わせた。細められた目。良かった。いつものお兄ちゃんだ。お兄ちゃんの右手が、あたしの巻毛に触れる。
「髪の毛だって、もう切るよ」
「うん」
 玩ばれて揺れる髪にお兄ちゃんの視線が注がれて、神経なんて通ってないはずなのに、なんだかくすぐったい。

 しばらく一緒に揺れる毛先を眺めていたけど、だんだん恥ずかしくなってお兄ちゃんの前に腰を下ろした。狭いなぁ。開いたままになっていたドアの枠に腰掛けているのに、お兄ちゃんと膝がぶつかってしまう。あたしは腰を少し浮かせて、お兄ちゃんの膝に身体を預けた。腿に腕を重ねて顔を埋めると、お兄ちゃんが空いた左手であたしの頭の後ろを撫でてくれる。
 優しい手。溶けちゃいそう。大きくて、あったかくて。
「…………お兄ちゃん」
「うん?」
「身体、もう大丈夫?」
「ああ……。うん」
 あたしはお兄ちゃんの両手を掴むと、包むようにそっと握って立ち上がった。不思議そうに見上げるお兄ちゃんに微笑ってみせる。今頃になって惜しくなった? でもこれは、あなたが決めた事でしょ。
「それじゃあね」
「え? 帰るのか?」
「何、驚いてるの? 帰るよ。試験前日の人、これ以上邪魔したりしないって」
「ああ、そっか。じゃあ送って行くから」
「ええ? いいよ。一人で帰れる。一体あたしをいくつだと思ってるの?」
 ここまでだって、一人で来れたんだよ?
「まだ太陽もこんなに高い」
 バスルームを出て、ベランダの窓に視線を向ける。冬の日差しは、レースのカーテンを突き抜けて、フローリングの床に長細い光を作り出していた。その中心に置かれたテーブルの上には、すっかり冷めてしまった紅茶と食べかけのガトー・ショコラが残されている。
「あれ置いてっていいかな? あ、でも食べないで捨てちゃってね。これ以上体調悪くしたら大変だから」
 返事を返されないように顔を見ないでそれだけ言って、コートに袖を通しながら素早く玄関に向かう。
「じゃ、頑張ってね」
「ん? ああ。気をつけて帰れよ」
 分かってないなぁ。 

「バイバイ」





 家に着いたら、まだ夕方だった。帰りの2時間はあっという間だった。行きはとても長く感じられたのに。
 最後尾の車両は2~3人乗客がいるだけだったけど、なんとなく座る気になれなくて、車掌室のドアに身体を預けながら閉じられたカーテンの隙間を眺めていた。後ろの窓に現れる風景は、来た道を高速で逆回しするみたいに前へ前へと流れていく。なんだか過去に戻っていくようだ。あたしは手を伸ばして捕まえたい衝動にかられるのを何度も我慢した。
 あの人と離れる事を決めたのに、なんだか可笑しくてたまらない。凛として、冷静で、いつも優しく包んでくれる憧れだった『お兄ちゃん』。情けなくて寂しがり屋で甘えん坊で……そんな人だなんて知らなかった。
 幼い頃から鈍くさくて泣き虫だったから、今まで全然気付かなかった。あたしがもっと大人だったら、きちんとあなたと対等に向き合えていたなら、きっとあなたも安心できて、違う結果もあったのかな? ……考えても仕方ない。だっておあいこだよね? あなただって気付いてなかった。あたしもう18歳なんだよ。2時間くらいの距離、簡単に飛び越えられる。

 ドアを開けると、お母さんまで驚いた顔をした。血の気の引いた頬に赤みが戻って、心底ほっとした表情でおかえり、と言ってくれた。そりゃ近いとは思わないけど、日帰りで帰れる距離へチョコを渡しに行ったくらいで、何がそんなに心配なの? とそこまで考えてふと、思い当たる。
「そういえばさ、何でお兄ちゃんの所だって分かったの?」
 あたしは『チョコを届けに行ってきます』としか書かなかった。友達に渡すかもしれないのに。まさか『お兄ちゃんなら何でも知ってるから』と思って電話した訳でもないだろう。
「そりゃ分かるわよ。お母さんだもん」
 お母さんはわざとらしく胸を張ってみせて、それから優しい、でも真剣な表情になって聞いてきた。
「お兄ちゃんと、きちんと話せた?」
「え? ……うん。まあ」
「本当の事が知りたい?」

 一瞬、頭が真っ白になったけど、あたしは微笑って首を降った。
 あの人とうちの家族と、何かあるのかもしれないけれど、そんな事はどうでもいい事。あたしが、たとえ血が繋がっていたとしても彼を愛してしまったように。大事なのは彼自身の想い。彼自身の選ぶ道。
「なんだか心配かけちゃってたみたいだね。ごめんね、ありがとう。でも大丈夫だから」
 そう言ってお母さんに微笑み返して、自分の部屋に向かいかけたあたしは、彼の部屋の前で立ち止まった。お母さんに気付かれないよう、そっとドアのノブを回す。
 完全に主の居なくなった筈の部屋は、いつもと全く変わっていないように見えた。本当に必要最低限の物しか持ち出さなかったんだね。長い間に染まった香りまでそのままで、ここにいると、今にもそのドアを開けてあの人が入って来そうな気がする。あたしは軽く首を振ってコートのポケットに手を入れた。
――また、お守り渡しそびれちゃった。でもこれ去年のだし、もうご利益も無いかな?
 あたしはお守りの中身を全部抜いてしまうと、彼の机に袋を置いて、引き出しの中から鋏を手に取った。
 左手で自分の巻毛をひとふさ掴んで、くるくると指先に絡める。昔からこれに触るのが好きだったよね。あなたが愛してくれたから、ここまで綺麗に伸ばしたんだよ。

 だからもう要らないんだけど。
 他の誰かに触れさせるのは、絶対に嫌だから。

 彼が最後に遊んだ辺りを狙って鋏を入れる。それを丁寧にお守りの袋にしまうと、またコートのポケットに戻した。
 これくらいの独り占め、してもいいでしょ?
 いつの間にか、西側の窓が暮れなずんでいる。あたしは鋏をしまうとカーテンを閉めた。視界が闇で遮られた瞬間、部屋中に充満していた彼の気配が克明に浮かび上がる。
――ああ、好きだなぁ。
 身体中包まれたくて、両手を広げる。

 歩く時の、真っ直ぐに伸びた背筋が好き。
 しっかりとした黒髪が好き。
 すらりと長い手足が好き。 
 穏やかに話す口調と、それに似あう柔らかくて甘い、低音の声が好き。
 微笑った時の、細められた目が好き。
 あたしの髪を撫でる、あたたかくて優しい指先が好き。
 触れた瞬間に、ほのかに漂う匂いが好き。

 
 ゆっくりと大きく息を吸いこんで瞳を閉じる。あなたが好き。大好き。あなたの想いも生き方も、未来だって全部愛せるよ。……だから、大丈夫。この部屋がこのままでも。
 さすがに今夜は泣いちゃうかもしれないけどね。

 口角が上がるのを確認してから瞼を開いた。ドアを開けると、電気の点いた廊下は眩しくて、つい目を細めて微笑ってしまった。あたしはそっと後ろ手でドアを閉めると、姿勢を正して前を向いた。
 明日は、髪を切りに行こう。

小説『2月』 第6章

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 その日は冬らしい晴れの日で、空は澄んだ淡い青色が広がって清々しいのに、強い北風のせいで洗濯物を干す指先に責められるような痛みが走ったのを覚えています。
 前もって聞かされてはいたものの、主人に連れられた幼い彼を見た瞬間、私はやはり『招かれざる客』と思わずにはいられませんでした。

 浮気なんて、実直を絵に描いたような主人に限ってまさか、という思いがありましたし、はっきり申し上げて今でも信じておりません。
 それでも、主人に問えば浮気を否定するような言葉は返ってこないでしょうし、万が一浮気が無かった証拠を突き止められたとしても、彼を引き取る気持ちを曲げる事はしないでしょう。そういう人なのです。
 彼女の死を聞くと、主人は「申し訳ない」と何度も私に頭を下げました。
 それで受け入れた訳ではありません。何を言っても聞かない人、受け入れられないのなら、離婚してでも責任をとろうとする人だという事を、嫌という程分かっていたからです。

 主人に抱かれたその子は、大人しくとても利発そうに見えましたが、主人には似ていないような印象をうけました。私の希望が目を曇らせているだけかもしれません。それでも、私が彼を主人の息子だとは思えない理由に足り得ました。
――きっと彼は主人の息子ではない。主人は彼女と関係はない。何か他に理由があって、主人と彼女は知り合い、誰からも受け入れられない子どもへの憐れみと、大人としての社会的責任から、うちに呼んだのだ――

 『他人』と思う方が楽でした。主人と血のつながりを感じない方が。

 他人だと思うからこそ、大切に育てようと思いました。いきさつは分からないけれど、主人が責任を感じるほどお世話になった方の息子さんをお預かりして立派に育てる――そう思えば、一人娘とも分け隔てなく育てようと配慮することもできました。
「私はお前の本当の父親ではないかもしれない。でも私は、私こそが本当のお前の父親だと思っているよ」
 私の気持ちを知ってか知らずか、主人は何度となく彼にこの言葉を口にしました。彼は主人の息子では無い――この言葉を聞くたびに、私はその想いを強固にしていったのです。

 最初のうちこそ人見知りがあったものの、彼は出会いの印象どおり利発で、また優しい子でした。
 幼い娘とはすぐに打ち解け、良く面倒をみ、娘も楽しそうに彼の後をついて回りました。
 親馬鹿で恐縮ですが、春の花壇のように美しく愛らしい娘と、その娘を守る騎士のような彼の組み合わせは人の目を惹きました。私は密かに2人を連れて歩くのが誇らしく、その点では彼の母親に感謝すらしておりました。

 そのような賤しい考えで、子供を育てるべきではありませんでした。罰が当たったのです。
 嫌な言い方をすれば、幼くして彼は分を弁えていたのでしょう。本当に彼は『いいこ』でした。何をさせてもそつなくこなし、我儘も言わず、道を踏み外す事もなく、努力を怠らず、常に私たちに気を使って生きていました。
 血が繋がっていなくとも、彼は私の自慢でした。幼いころから私が分け隔てなく育て上げた――そういった傲慢な自負がありました。
 聡明な彼は気づいていたのですね。私が彼をきちんと『息子』として育てていれば、彼の、いえ、彼と娘の叫びに気付けていた筈なのです。




 2人が成長し、子供から少年少女へ体つきを変える頃、私の中にちょっとした違和感が生まれました。
 傍からみれば、今まで通りの『仲のいい兄妹』でした。それはそうなのですが……なんと言ったらいいのでしょう。普通の兄妹と比べて仲が良すぎるというか、意識が強すぎるというか……、距離の取り方がおかしな気がしたのです。
 幼いうちは、良い事だと思います。お互いに世界が狭いのですから。喧嘩するより仲良く助け合うのは理想だと思います。しかし成長していけば、そのうち其々の世界も広がっていくのが普通でしょう。常に彼だけをめざし追いかけてくる妹のために、優しく微笑みかけながら道を作るように前を歩く兄。2人は学校が別れるほど大きくなってもなお、家庭内の小さな2人だけの世界に縛られているようでした。

 やがて、その事を決定づけるような出来事がありました。
 娘が台所に立って、甘い匂いをさせています。お恥ずかしながら、今まで率先して台所に立つことはしなかった娘でした。折しも2月。とうとうそのような親しい友人か、憧れの人が出来たのかと、娘の成長を密かに喜びながら、私は邪魔をしないよう遠くに離れ、見て見ぬふりを続けていました。
 いつの間にか、格闘する娘の傍らに彼がいました。悲しい顔をする娘に対し、いつものように微笑んで何かを教えているようでした。何でも知ってる子ねぇ。と、そこまでは日常よくある風景として、特に気にも留めませんでした。
 娘はしばらくそれに素直に従っていましたが、次第に怒ったように頬を赤らめ、とうとうふくれっ面のまま溶かしかけのチョコを彼の口の中に入れました。突然の娘の行為に彼は驚いた顔をして、それから、娘の頬へ指を伸ばして……――ああ、何と言ったらいいのでしょう。あんな表情を見たくは無かった!
 初めて、彼の笑顔の裏側に潜んだ本音を覗いた気がしました。その瞬間感じた嫌悪と恐怖。子を持つ親ならお分かりいただけるでしょう。
 彼は、娘にとっては兄かもしれません。でも私にとっては、どこまで行っても『他人』でしかないのです。その『他人』の男が、一つ屋根の下、年頃の大事な一人娘の傍に常にいるという事実に、今さらながら悪寒が走りました。たとえ娘がどんなに相手を慕い、相手が聡明で分別のある若者だったとしてもです。
 しかも彼は――考えたくもありませんが、ここまできたら考えないといけないでしょう。主人の血が流れているかもしれないのです。

 ≪私はお前の本当の父親ではないかもしれない。でも私は、私こそが本当のお前の父親だと思っているよ≫
 今頃になって、この言葉が呪縛になるなんて。
 意味のない例え話ですが、もし彼がよその家庭の息子で、ただの娘の先輩として紹介された若者だったら、私は両手をあげて彼を歓迎した事でしょう。彼の素晴らしさはよく知っています。私が育てたのですから。
 でも彼は駄目です。彼だけは駄目です。彼の出生を、今さら主人に尋ねることもできません。答えを聞くのが恐ろしい。

 しかしその日を境に、二人の距離が目に見えて離れて行きました。彼が私の心を悟ったのか、自分自身に恐怖を感じるようになったのか、それは分かりません。ただその日以来、娘の顔はみるみる暗くなっていきました。
 二人の間に悲しい溝が生まれているのが、手に取るように分かりました。でも今更どうしてやれば良いというのでしょう。ずっと親子になる事を拒否していた私が、彼に母親面して?
 その時やっと気づいたのです。私が、いえ、私たち夫婦が、長い間彼にどれだけ酷い仕打ちをしていたのかを。





 大学を落ちた彼が、リビングのソファに腰かけて何をするでもなく窓の外を眺めているのを見ながら、私はただ見つめているしかできませんでした。
 うちに引き取られて以来ずっと立ち向かってばかりいた彼の、おそらく初めての失敗でした。今まで彼にとって我が家は戦いの場であったように思うのです。娘と離れるようになってからは特に。
 魂の抜けたようなその佇まいは、普段の精悍な彼を知る者が見れば、とても哀しく映ったでしょう。でも私は、そんな彼の姿に安堵していました。少なくとも彼にとって、我が家は『帰る場所』であり、私は『無防備になっても良い相手』だと認識されていたのですから。
 
 しばらくして、呼び出されて出向いた高校から大量の荷物と一緒に帰宅した彼は、まるで憑き物が落ちたかのようなさっぱりとした表情をしていました。
 良い友人に恵まれて、幸せな高校生活を送れていたのでしょう。それは彼の資質と努力の賜物ですし、彼がそのおかげで立ち直れたのは、喜ばしい事です。頭では分かっています。が、気持ちとしては複雑でした。
 この数日間で、彼が私を身内だと考えていてくれた事が分かって嬉しかったのに、自分は結局なにもしてやれず、手柄を他人に取られたようで面白くありません。長い間『息子』として考えられなかったくせに、何を言っているのかとお思いでしょうが、私の中に『息子離れ』出来ていない自分がいるのです。自分でも驚きましたし、不思議でした。

 それから、彼のなかで決まった答えを私たち夫婦は聞かされる事になります。
 今までそれが当たり前でした。彼の出す答えはいつも正しく謙虚で、私たち夫婦にとって反対する余地の無いものでした。でも今回は……。彼は地元の大学進学を止めて、来年遠くの大学を受験したいと言い出しました。
「……ひとつ、聞いてもいいかしら?」
「何ですか?」
 今まで進学を勧めていた私たちです。彼の予想からすれば、一も二もなく賛成するところだったのでしょう。彼は小さく眉を動かすと、私の瞳を探るように見つめてきました。
「そこは随分遠いし授業も忙しそうだけれど、帰る予定はあるのかしら?」
「え……?」
 一瞬大きく開いた彼の瞳が、口ごもりながら左右に揺れました。主人も驚いた顔をして私を見つめています。
「誤解しないで欲しいのだけど――」
 二人の視線を感じながら、私はゆっくりと息を継ぎました。
「あなたは試験で、――残念な結果になって、それは悲しい事ではあったけれど、それから今日までのあなたとの時間は、私にとってとても幸せだったの。あなたはこれまでずっと完璧で――あろうとして、私たちに助けを求める事はしなかった。それでもこの数日間は、このリビングで見せたあなたの顔は、あなたの本当の気持ちだったのね」
 彼は何か言いたそうに、眉根を寄せていくらか唇を動かしましたが、私がゆっくりと微笑むとそのまま黙って瞼を伏せました。
「あなたがここに戻って来たくない理由は、分かっているつもりです。……それでも、帰っていらっしゃい。悲しい事や、辛い事だけじゃなくて、楽しい事や、喜びを分かち合いたい時、何も無くったっていいの。あなたが戻って来たい時にいつでも。……帰っていらっしゃい。あなたの家はここなのよ」
 ゆっくりと顔をあげた彼の瞳をみて、あの、はじめて主人に抱かれてうちにやって来た日の事を思い出しました。あの幼い瞳に向かって同じように、あなたの家はここなのだと言ってあげていたら、今の私がこんなに寂しい思いをしなくて済んだでしょうか。

 寂しいのです。頼られない事が寂しい。甘えてもらえない事が、本音をぶつけてもらえない事が、出ていかれてしまう事が、帰れない場所だと思われている事が、今まで過ごした彼との時間が、とてもとても寂しいのです。そして、そう思えた事がとても嬉しいのです。
「この家に待つ私たちが、あなたの今の家族なの。みんなあなたを待っているのよ」
 私は自分を誤解していました。私は確かに彼を主人の息子としては見ておりません。ですが、ずっと息子として慈しんで育ててきたのです。娘と同じように。分け隔てなく。それは誇りに思っていい事だったのです。
 私は彼を、愛していました。完全な息子として、ではありませんが、家族として。頼られたいと、愛したい、幸せになってもらいたいと願う程度には。
 




 彼に私の思いがどれだけ通じたのか、それは分かりません。私は彼にとって、決していい母親ではありませんでした。それでも、長い間一緒に暮らしていたのです。少しは絆のようなものがうまれていたのだと、信じてもいいでしょうか?
 1年後、試験のために家を出る彼は、私たちに向かって「行ってきます」と微笑んで出て行きました。もちろん「行ってらっしゃい」と答えました。彼はきっと帰ってくる。ここが彼の家なのだから――そう、思った矢先、
『チョコを届けに行ってきます』
 そう書置きを残して、娘が消えていました。目の前が真っ暗になりました。問題は何一つ解決していなかったのです。普段からぼんやりとした印象の娘に、こんな行動力があるとは思いませんでした。
 彼になんて伝えたら良いのでしょう。携帯のボタンを押す手が震えます。とぎれとぎれに話す私に、彼は
「心配いりません。――大丈夫ですよ」
と告げました。

 情けなさと申し訳なさで、通話を切ってからしばらく立ち上がる事も出来ませんでした。自分の気持ちの整理だけで、何故解決したなどと思ってしまったのでしょう。その間も娘はずっと彼に想いを寄せていたというのに。
 主人に話すべきでしょうか? そのうえで、親子かどうか調べて……。でも、もしそれで本当に親子であると証明されてしまったら? ただぬか喜びさせるだけになってしまいます。それに、子供たちの想いを軽々しく私が主人に告げるべきではないような気がします。
 ……そもそも娘は、彼の素性を知っていたでしょうか? 彼が引き取られた当時、娘はとても幼かったし、私の口から彼について娘に話した事は一度もありません。
 背筋に冷たいものが走りました。もし私の考えが正しいなら、娘は相当の覚悟を持っている事になります。

 ソファを手繰り寄せるように手すりに掴まりながら、なんとか腰を下ろしました。まずは落ち着かなくては。彼の元へは、ここから電車で2時間はかかります。きっと今日は帰ってこないつもりでしょう。今日は彼の言葉を信じて待つしかないとして――帰ってきたら、どう話すべきか……。長い夜になりそうです。


>『2月』第7章


小説『2月』 第5章

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 受験に失敗してからというもの別人のように呆けていたお兄ちゃんが、学校からチョコレートを手に帰って来たので、あたしは目の前が真っ赤になった。去年は貰って帰って来なかったので油断していた。相手はあの娘に違いない。
「お前宛だって」
  固まったあたしにそう言って、お兄ちゃんは包みを手渡した。そんな訳ないじゃないと思ったが言い出せなかった。可愛らしい包みを開けると、綺麗な蝶の形をしたビターチョコがお行儀良く並んでいる。
  折角だからお礼にお茶でも淹れるね、と台所に向かう事でお兄ちゃんから離れるのに成功した。心がざわついて身体の制御が上手くできない。あたしはちゃんとお兄ちゃんに笑えているんだろうか? やかんの下の炎を眺めながら、気付かれぬように2・3度大きく息をする。
  あの文化祭以来、あたしはこっそり練習して紅茶だけは美味しく淹れられるようになったつもりだ。大丈夫。落ち着いてやればきっと上手くいく。
  お兄ちゃんは、最近では見かけなくなったさっぱりとした笑顔で、やはりやりたい事があるからもう一度受験しようと思うんだ、と言った。その決意そのものに対しては私もすごく嬉しかったので、喜びを素直に返すことが出来た。

  でもその決意をさせたのは誰なんだろう?

  ありがとう、とお兄ちゃんは微笑って、また以前のようにあたしの髪を撫でてくれた。その指先は優しくてあたしは蕩けてしまったけど、同時に身体の芯が重く痺れるように痛くなって、またちゃんと笑えているかどうか不安になった。
  せめて笑っていたい。お兄ちゃんに釣り合う妹になれないのなら、お兄ちゃんを少しでも安心させられるように。
  それ以外にお兄ちゃんの隣にいられる方法は、もう思いつかなかった。

  今年はあたしも受験なので、家でお兄ちゃんと一緒に勉強が出来る事が楽しい。いかんせん学力に差が有り過ぎて、教わるばかりなのが悲しかったけれど。あたしの紅茶をお兄ちゃんは美味しそうに飲んでくれたし、ふとした合間にお兄ちゃんの笑顔が覗けるのが嬉しかった。
  だけど重い痺れは小さな棘みたいになって、あたしの胸にいつまでもひっかかってる。この嫌な感じは何なんだろう。
  それは程なくして大きな波になってやってきた。

  あたしはこれからもお兄ちゃんとなるべく一緒に過ごしたかったけど、お兄ちゃんが狙っている地元の大学は、あたしの学力じゃ逆立ちしたって届かない。そこであたしは今の高校を決めた時のように、近所で推薦を狙える学校に狙いを定めることにした。
  狙いは見事に的中し、あたしは女子大生への切符を手にした。あたしは嬉しくて、これでお兄ちゃんとまた一緒に通学できるねと言ったら、お兄ちゃんはいつも困った時にする眉根を寄せた表情をして、今年は違う大学を受験するから合格したらこの家は出て行く事になるよと言われた。





  …………突然すぎて、思考が追いつかない。

  当然だけど、その事はお父さんもお母さんも知っていて、あたしだけが知らなかった。あたしだけが知らなくて、毎日に一喜一憂していたのだ。やりたい研究の第一人者の教授がその大学に居るのが理由らしいけど、納得がいかない。そんな事が理由なら、お兄ちゃん程の学力があれば去年のうちからそこを受験していた筈だ。ふと、嫌な考えがよぎる。……後輩のあの娘は、この事を知っているんだろうか?
  このままでは、また笑えなくなってしまう。あたしは校門の前に立ち、向かいの道路を横切る私服の学生達を目で追った。あそこの学校の生徒は、通学に必ずうちの学校の前を通る。やがて寒そうに背中を丸めて歩く彼女の姿を見かけた。
  声を掛けようか躊躇っていると、後ろから男子学生が走って来て彼女に声を掛けた。二、三言会話した彼女は怒ったように拳を振り上げたが、すぐに引っ込め、恥ずかしそうに横を向いてしまった。
  きっと彼女は彼の事が好き。
 そう感じたら話しかけられなくなってしまった。そうだ、あれから1年近く経っている。お兄ちゃんだって、もうここには通っていない。

  どうしよう。彼女には彼女の時間と人生があって、人の心も移ろいやすくて、それは誰にも止められない。彼女はきちんと自分の想いに整理をつけて、前を向いて歩いていた。――あたしは?
 あたしはお兄ちゃんの事が大好きで、憧れてて、釣り合う妹になりたくて、でもどうしても出来なくて。
  どうしよう。ずっとずっと好きだったけど、好きだったけど、妹になんかもうなりたくない。妹になんかなりたくなかったんだ、あたしは。どうしよう、あたし妹なのに。妹にしかなれないのに!
  彼女がもう一人のあたしだなんて、お兄ちゃんに何かしてあげたいだなんて、何て傲慢な夢想だろう。きっとお兄ちゃんは、断ち切ることも進むことも出来ず、自分に縋るばかりの情けない妹に失望したに違いない。





  その日、あたしはお母さんに呼ばれて2人きりになった。お前には内緒にしようって決めてた事なんだけどね、と切り出したお母さんの口調に重大さを感じて、あたしは姿勢を正して聞くことにした。
 「お兄ちゃんは本当は、うちの子じゃないの。お父さんの知り合いの子供だったんだけど、その方が亡くなって、他に頼れる人もいないみたいだったから、うちで引き取る事にしたの」
  お前はまだ小さかったし、引き取った以上お兄ちゃんもうちの子に変わりはないから、聞かれなかったら黙ってようかと思ってたんだけど……とお母さんはそこで言葉を濁した。じゃあどうして今になって? と聞くとお母さんは
「だってお前、お兄ちゃんのこと好きでしょう?」
と静かに微笑った。





  起きたらそこはあたしの部屋だった。
  そんな都合のいい話がある訳がない。あたしは幸せ過ぎる夢に吐き気を覚えた。吐きそうな気持ちを抑えているから、ずっと胃の奥がむかむかする。それでもお兄ちゃんの前では笑うことが出来た。大丈夫。まだやれる。
  試験が始まったら同時に家探しをするので、お兄ちゃんは向こうの家具付きウィークリーマンションを借りて、しばらく家には帰って来ないそうだ。落ちる気は微塵もないらしい。時間がない、急がなきゃ。あたしは台所に立った。
  気が付くと、お兄ちゃんが食器棚にもたれるようにして、黙ってあたしの背中を見ている。そう言えば、子供の頃もあたしが遊んでいるのをそうやって見ててくれてたな、とぼんやりと思う。あたしが転んで泣くとすぐに手を差し伸べてくれた。でもこれは、自分で全部やらなくちゃ意味が無い。
  今はまだ練習だからあげないよ、とあたしはあえておどけてみせる。お兄ちゃんもわざとらしく肩をすくめてみせた。陳腐だなと思いながら、あたしはゆっくり息を吸う。




  ちゃんと出来たら、貰ってくれる……?




  背中から気配が近づいて来ているのが伝わるけど、振り向くことができない。多分あと半歩。手が髪に伸びる。もう、15センチ。

  拳の握られる音が聞こえた気がした。楽しみにしているよ、とそれだけ言ってお兄ちゃんは部屋に戻って行った。ありがとう。大丈夫。あたしはちゃんと最後まで笑える。

>『2月』第6章

小説『2月』 第4章

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 俺の一番古い記憶は、白い布を顔に掛けて横たわる母親の姿だ。俺は誰か知らないおじさんに抱かれて、動かなくなった母親をただ見ていた。周りでは複数の人の口論が聞こえていて、とにかくそれが怖くて仕方が無い。俺は大きな背広に必死でしがみついて、その人の心音で喧騒から逃れようとした。

  俺の母は所謂シングルマザーという奴で、頼れる親類もいなかったから、本当に1人きりで俺を育てていた。
  母は商売の関係上、お付き合いはしているけれど『恋人』ではない男の人が複数いて、揉めていたのはその人達だ。まあその人達それぞれにも生活があるだろうし、こうして葬式に集まってくれただけでも母は愛されていたのだろうと思う。勿論これは今の俺だから思える事で、その当時は怖いばかりで何も理解ってはいなかった。
  揉め事の原因は、母が生涯口にすることの無かった俺の父親の正体で、結局俺は掴んだ背広を離さぬまま、今の家に連れて来られた。
  その日から知らないおじさんは父親になり、新しい母親と妹が出来た。

  『私はお前の本当の父親ではないかもしれない。でも私は、私こそが本当のお前の父親だと思っているよ』
  俺が新しい環境に慣れるまで、父は何度も俺にこう言った。母も必ず笑顔でそれに同意した。自分のかどうかも分からない子供を引き取った父の男気と、浮気相手の息子にも分け隔てなく接する母の情愛には、尊敬も感謝もしてもし足りないと思っている。しかしあの日の――、実の母が死んだ日に聞いた、大人達の怒号や罵声が耳にまとわり付いて、当時の俺は新しい両親にどうしても心が開けずにいた。
  でもまだ言葉も拙い妹は、何も分からぬまま唯こちらを見上げてくる。頭を撫でれば笑い、俺の行く所どこにでも付いて来て、転べば泣き、抱き上げればまた笑う。瞬く間に、俺は動く人形のような彼女の虜になった。
  彼女が何でもかんでも俺のすることを下手糞に真似するので、難しい顔や乱暴な事が出来なくなった。俺の話に瞳をきらきらさせて喜ぶので、読める本は片っ端から読んで、彼女が面白がるように適当に組み合わせた御伽噺をたくさん作った。
  お宅のお子さん達は、本当に仲の良いご兄妹で羨ましいわ。近所の人からそう言われた時の誇らしい気持ちを今も忘れない。こうして俺は、妹のおかげで新しい居場所を手に入れたのだ。




  高校受験のとき、俺は先生の勧めを断って、あまり有名校とはいえない私立の特待推薦試験を受けた。父も母も俺を本当の息子として育ててくれたが、だからこその負い目が俺にはあった。全くの他人かもしれない、良くても浮気相手の息子である俺を、笑顔で育て続けてくれた両親に、出来る限り苦労はかけたくない。そして自慢できる息子であり続けたかった。
  妹は相変わらず、俺の後ろを瞳をきらきらさせながら追ってくる。その姿に安心して、俺は前を向いて歩く事ができる。自分の居場所を確保する為に、俺は理想の兄であり続ける。俺にとって、彼女は生きる支えだった。
  だから正直、彼女がチョコレートを作っているのを見たときはひどく動揺したのだ。自分以外に彼女の理想が存在するなんて信じ難かった。しっかりしろ! こんな時に理想の兄ならどうするか??

 果たして自分の口に入れられたチョコはひどく苦くて、俺は長い夢から醒めた。ああ、そうだ。彼女は妹、妹なのだ――




  俺の目が醒めたからと言って、今更理想の兄を降りる訳にはいかなかった。何より自分が彼女の視線に耐えられない。俺は自分で敷いたレールの上を走り続ける。だけど最近、妹は俺の顔を見て笑わなくなった。少しずつずれていく距離を上手く修正する事ができないまま、俺は流れていく時間の波を必死にもがいた。

  今の俺の勉強部屋は父の書斎を潰した物で、俺の小学校入学のお祝いに譲り受けた物だ。それまで俺と妹は同じ子供部屋に寝泊りしていて、俺は新しい自分の城に心から喜んだ。
  しかし夜になると、自分の城は恐怖の館に一変した。独りだけの部屋は物音ひとつしない暗闇を作り出して、自分はそれに飲まれまいと布団に隠れて身を硬くした。
  しばらく息を潜めていると、遠くで泣き声が聞こえる。俺は飛び上がりそうになる心臓を押さえつけ、布団の端を握りしめて砦の守りを固くすると、じっと耳をそばたてた。泣き声はだんだんとか細くなり、同時に日本語として聞き取れるようになってきた。

  ……ぃ……ゃん…………

 しゃくりあげる幼い声に突然思い当たって、勇気を出して布団を飛び出し部屋のドアを開けると、足元で妹が泣いていた。怖くて眠れないのと言う妹を布団の中に招き入れ、背中からぎゅっと抱いて眠った。腕の中で嬉しそうに寝息をたてる妹の体温は温かく、俺は新しい部屋への恐怖もすっかり忘れていた。
  あの時の俺は妹を救った勇者のような気持ちで、同時に彼女の温かさに救われてここまで来た。しかし今の俺は彼女の救い方が分からない。

  最近嫌な夢を良く見る。大事な物や大事な人達が自分の脇からすり抜けて、前へ前へと流れていく。掴み取りたくて必死に手を伸ばすと、笑った顔が光に溶けて、目の前ではじけて消えてしまう。
  受験直前で睡眠は貴重だと言うのに、こんな調子では眠る気も起きない。それでも寝不足で失敗する訳にはいかなかったから、試験前日には薬を飲んで無理矢理眠った。
  顔に朝日が当たった気がしたので、俺は夢を見ずに眠ることが出来たのだと感じてほっとした。薬の余波だろうか、少し頭がくらくらする。目覚ましを確認すると、起きる時間にはまだ早いようだ。折角だから薬の勢いにまかせて今までの睡眠不足を取り戻しておこう。俺はそのまま瞳を閉じて肩の力を抜いた。
  再び眠りに落ちかけたその瞬間、親しんだ柔らかい物が額に当たった気がして、咄嗟に手を伸ばして捕まえた。今度こそ逃したくなくて必死に掴んで、何か叫んだかもしれない。
  程なく頭は覚醒したが、夢は実体として腕の中に残った。暖かい感触にぎくりとして思わず突き放すと、脅えた顔の妹と瞳が合った。

  失敗した――!!!

 目の前が暗く暗く落ちていくのに、彼女の甘い匂いが腕の中から消えてくれない。俺は理想の息子として、兄として、家族として、あの場所にいたかったんじゃなかったのか。小さい頃に父から聞かされた言葉を、頭の中で呪文のように繰り返す。思いたくない、思いたくないんだ、消えてくれと、心の中を必死で塗り潰す。もし、もしも俺と父親が本当の…… 
  



     最  低  だ。



  案の定受験には失敗し、両親は今からでも間に合う大学を探したらどうかとか、どうしても勉強したい事があるのなら、こちらは応援するから浪人しなさいとか言ってくれたが、どうにも力が入らなくなっていた俺は、曖昧に返事をしてぼんやりと一日を過ごしていた。
  そんな時、部活の後輩から呼び出しを受けて生物室に行くと、置きっ放しにしていた私物と一緒にチョコレートを渡された。本当は薄々彼女の気持ちには気付いていたのだが、チョコを渡されたのは意外だった。妹が生物室に現れて以来、彼女は俺に遠慮がちになっていたからだ。そういう意味では、彼女の方が俺より先に俺の気持ちを見抜いていた。

 「それではこれは私の可愛いライバルに渡してください」

  妹に惚れている俺が気持ち悪いから、離れていったのだとずっと思っていた。彼女はまっすぐに俺の瞳を見つめて来る。瞼の奥で彼女の瞳が妹と重なって、俺は力の抜けていた自分をようやく心地良いと感じたのだった。


>『2月』第5章

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「まえぜん」とは、"まえがたつからぜんりつせん"の略。
オリジナル創作小説の個人サークルです。
PNはサークル名と同じ"まえぜん"。
子育てライフ満喫しながら、まったり活動再開妄想中^ ^;



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